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Yukio Fujimoto Sound Album SIDE B「fragments 1980-2020」2020.8.1 - 8.31

01. GIRL, 1980, VHS Video
08:15

1980年大阪府立現代美術センターで開催された「第1回ビデオ・アンデパンダン展—アート・アンド・ドキュメント」に出品されたビデオ作品。

当時はまだビデオ機器を所有しておらず、ビデオ・アンデパンダンに出品する目的ならば、スポンサー企業であるビクターのショールームからVHSのビデオ機器を借用できることを知り、初めて制作したビデオ作品である。

少女のポートレイトのコピーを何回も繰り返したものを撮影した35mmポジスライドマウントを一枚一枚重ねて行き、その後一枚一枚取り去って行くプロセスを固定カメラで撮影した。

当時のビデオカメラの撮像管は残像現象が激しく、この作品でも真っ暗にした状態でもうっすらと少女の顔の残像が残っている。

音楽はマルチカセットレコーダーとエンドレスカセットテープによって制作された。


藤本由紀夫

02. M-U-S-I-C, 1980, Vinyl record
04:19

1981年に大阪のvanity recordから発売されたLP「LADY MAID / NORMAL BRAIN」に収録されている一曲。

70年代の終わりにTexas Instrumentsから発売された子供向けの英語発音玩具「SPEAK & SPELL」を手に入れた。タイプライタ−のようにアルファベットのキ−を押すと、スピ−カ−からかすれた男性の声が文字を発音する。AからZまでの26文字を発音するのみで、単語を打ってその言葉を発声する能力はなかった。しかし、あらかじめ組み込まれていた単語集の中に「MUSIC」を見つけたとき、このSPEAK & SPELLをヴォ−カルにして曲を作るアイデアが浮かんだ。

「M-U-S-I-C MUSIC」というSPEAK & SPELLのための歌詞は、数年後から始めることになるサウンドオブジェの制作コンセプトである「分離と結合」そのものであった。

https://wrwtfww.com/album/lady-maid


映像は2015年、神戸アートビレッジセンターで開催された「phono/graph」の展示のために制作された。


藤本由紀夫

03. YOU ARE BUSY, I AM EASY, 1980, Vinyl record
02:27

アルバム「LADY MAID」に収められた一曲。

speak & spellのいろいろなキーを押していると、目で知覚する文字と耳で知覚する文字の違いがあることがわかった。例えば「U」のキーボードを押すと耳には「You」と聞こえてくる。よく使われる「EZ」は耳には「EASY」と聞こえる。そこで、その他のキーを押しながら、言葉になるようなアルファベットを探し、U,R,V,Z,I,M,E,Zのキーを押しながら制作した。

数年前、スウェーデンの女性の音楽家からこの曲を演奏したレコードを出したいというメールが届いた。その後届いたレコードを聞いてみると、生声で歌っているのでびっくりした。

この映像もphono/graphの展示のために制作された。


藤本由紀夫

04. CALCULATOR MUSIC, 1986, Performance
03:49

70年代終わりから80年頃にかけて、電卓(electronic pocket calculator)がブームであった。各社から様々な機能を持った電卓が発売されたが、カシオから発売されたこの電卓は「メロディ電卓」と呼ばれ、数字キーを押すとそれぞれのピッチの音が奏でられるものであったが、特に必要性を感じるものではなく単なる付属機能でしかないものであった。

いくつか同様のメロディ機能を備えた電卓の中で、カシオの電卓は、計算結果の数字をメロディで奏でるという特徴をもっていることに気づいた。そこで計算をすることで作曲できるのではないかと考えた。小数点7桁目の数字が異なる数列をひたすら2倍にして行くと、誤差が次第に拡がって行く。それにつれてメロディも次第に異なって行く。

今回久しぶりにメロディ電卓を取り出して映像に記録してみたが、40年程経過した電卓はピッチがそれぞれズレていた。


藤本由紀夫

05. TARUPHON, 1988, 8mm Video
01:42

1970年4月21日、朝刊の番組欄を見ていたら,「稲垣文学の世界」という文字が目に飛び込んできた。そこには、NHKの朝のラジオ番組で、稲垣足穂に瀬戸内晴美がインタビューすると書いてあった。私はあわてて、ラジオのスイッチを入れ、テープレコーダーにテープをセットした。足穂の声は、少しばかりどもりながら、早口で自分の文学のバックグラウンドについて語っていた。その時は、番組が始まって10分ほど経過して突然やってきた。

それまでこもりがちに話していた足穂が、若いときの飛行機の話に移ったとき、その頃のことを思い出したのだろう。「コンタック クーペ コンタック クーペ ブルルルルルルルルルルウン」と叫びだした。私はその声に、のけぞってしまったことを今でも覚えている。稲垣足穂が益々好きになった瞬間である。瀬戸内晴美も楽しそうに笑っている。

この足穂の声をオブジェ化できないかと考えて、デジタルサンプラーの基板を使い、真鍮の砲弾、AO円筒といったタルホ文学のキーワードを散りばめて「足穂の蓄音機」を制作した。


藤本由紀夫

06. UNDR, 1992, 8mm Video
03:55

1992年、デンマークのコペンハーゲンで開催された「UNDR」という展覧会での展示の様子を8mmビデオで収録したもの。

「UNDR」というタイトルは、ボルヘスの短編から取られたもので、バイキングの古語で「WONDER」という意味である。テクノロジー・アートをハイテクからローテクまで広く捉えて、アート/科学/技術に共通する「不思議に思うこと」で構成された興味深い展覧会であった。私にとっては初めての国際的な展覧会への参加であった。

私に与えられた部屋には大きな窓があった。その窓を通して外の音を聞くアイデアが浮かんだが、窓を開けるため雨が入り込むという問題があった。このアイデアを展覧会のディレクターに話してみると、彼はしばらく考え込み、そして「nice idea!」と答えてくれた。


藤本由紀夫

07. NEWLYN ART GALLERY, 2002, Digital Video
08:39

2002年、イギリス西南部のセント・アイヴス・アートフェスティバルに招待された。「CERAMICA」と名付けられたその年のテーマは陶磁器であった。そこで私はタイルの上を歩くというアイデアをギャラリーのディレクターに話してみたところ、面白いからやりましょうとの返事をもらった。

セント・アイヴスは多くの窯元があるということなので、タイルではなく窯元で廃棄された皿や壷などの破片を床に敷き詰め、その上を歩くというプランをメールで送った。しばらくしてイギリスからメールが届いた。「実際に試してみたが、破片が尖っていて、その上を歩くのはとても危険だ」ということであった。それで、当初の壁用のタイルを用いるプランに戻した。

その後またメールが届いた「タイルを敷いて歩いてみたが、今度は粕薬を塗った表面がつるつるしているために、すべってしまい、これでも危険である」ということだった。単なる思いつきで簡単にできると思っていたこの作品は意外に難敵であった。あらかじめ実験もせずブランを提出した私の責任である。

あきらめて、別のプランに変更しようと考えていたところに再びイギリスからメールが届いた。「いいものを見つけた。これなら大丈夫」という文面である。イギリスのギャラリーに行くと、そこには乳白色の素焼きのタイルが2500枚用意されていた。その素焼きのタイルがあまりにきれいなので、そのまま床に2段に敷き詰めてみた。

タイルの床をそっと歩いてみると、タイル通しの擦れる音がとてもはかなく感じられた。そして不意にパキッと割れる音に驚かされて下を見ると、足下のタイルには、ひびのドローイングがあざやかに描かれていた。

私はとても気に入ったが、イギリスの人にはこの繊細さは理解できないのではと心配した。オープニングの日、ギャラリーでは老年の紳士がタイルの上を歩いていた。彼は私に気づくと「素晴らしい!音が立ち上っている」と言った。私はその言葉を疑った。そして改めてよく聞いてみると、床から聞こえるタイルの音がフワッと天井に抜けていくのが聞こえた。私は彼等に作品の作り方と作品の聞き方を教わった。


藤本由紀夫

08. MUSIC DUST BOX, 2008, Mobile phone
01:26

国際芸術センター青森での展示において、オルゴールユニットだけを持参して、現地で様々な素材、形のものを選び、その上にオルゴールを乗せる計画であった。

館内の様々な場所を巡り、面白い響きを生み出しそうなものはないかと物色したがなかなか思い通りにはいかなかった。休憩のために外に出た時、傍にステンレスのゴミ箱があった。何気なく持っていたオルゴールを乗せてみたところ、面白い響きを奏でだした。ここまでは予想できたことだが、回転蓋の上をゆっくりと移動するオルゴールを眺めていたら突然蓋が回転し、オルゴールが落下した。それとともに音も突然消えた。このあっけない展開に遭遇した瞬間を今も鮮明に記憶している。


藤本由紀夫

09. BROOM(Coal), 2012, Mobile phone
04:51

ドイツのドルトムントで開催された「phono/graph」で展示された作品。この展覧会はデュッセルドルフとドルトムントの大学院の学生がほとんど準備してくれた。

ドルトムントが嘗て石炭を算出していたので、石炭をレコード盤の形に敷き詰めるプランをメールで送り、彼等がすべての手配と準備をやってくれた。準備の途中、会場には粉塵のセンサーが取り付けてあるので、石炭から粉塵が舞い散る恐れがあるので展示は難しい状況になった。

その問題に対して彼らは「石炭を洗う」という解決策を見出した。きれいに洗われた一つ一つの石炭は、照明を当てられることによってダイヤモンドのように輝き出した。


藤本由紀夫

10. PET, 2015, Digital Video
03:29

オルゴールのユニットを箱等に固定せず、ネジを回して机上に置くと、ネジの回転によって生き物のような動きをする。その動きを眺めているのも面白かったが、紙袋の中に入れてみたら、驚くような生き物の気配を醸し出した。視覚を閉ざすことによって、聴覚はより想像力を発揮する例である。


藤本由紀夫

11. on the circle otani, 2020, Digital Video
07:50

2020年2月に開催された西宮市大谷記念美術館での新収蔵品展において、地元の小学生を対象に行うワークショップのために制作した作品。美術館の倉庫にある丸い形状のものを選び出し、その中にオルゴールを置き、素材や形による音の変化を体験することを目的としていた。

あいにく新型コロナの影響でワークショップは開かれなかったので、急遽記録をしておこうということになった。実際にその場で体験するのとは異なる世界がモニターに出現した。


藤本由紀夫

overview
藤本由紀夫 オンラインショー「Yukio Fujimoto Sound Album」
会期:2020年8月1日(土) – 8月31日(月)

SIDE B:fragments 1980-2020 プレイリスト
01. GIRL, 1980
02. M-U-S-I-C, 1980
03. YOU ARE BUSY, I AM EASY, 1980
04. CALCULATOR MUSIC, 1986
05. TARUPHON, 1988
06. UNDR, 1992
07. NEWLYN ART GALLERY, 2002
08. MUSIC DUST BOX, 2008
09. BROOM(Coal), 2012
10. PET, 2015
11. on the circle otani, 2020
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