あの場所にはいつ行ったのだろう、はっきりとは覚えていない
スマホのカメラロールからその場所の写真を探す
表示される撮影日は私の感覚とはズレがある
記憶は日付を持ってはいない
それは時間や空間を溶解して混ざり合う
忘れて消えたものは、たゆたいながらゆっくりと姿を現わす
2025年3月3日 丸山直文
あの場所にはいつ行ったのだろう、はっきりとは覚えていない
スマホのカメラロールからその場所の写真を探す
表示される撮影日は私の感覚とはズレがある
記憶は日付を持ってはいない
それは時間や空間を溶解して混ざり合う
忘れて消えたものは、たゆたいながらゆっくりと姿を現わす
2025年3月3日 丸山直文
展覧会について
丸山直文は、たっぷりと水を含ませた綿布を床に置いた状態で描きはじめます。水を通して絵具の色彩が滲み広がり、画布に染み込んでいく作用を用いることで、ものの境界が曖昧に溶け合うような風景を多く描いてきました。硬くしっかりとした支持体に絵具を塗り重ねるのとは異なり、湿地帯のように湿った画面に少しずつ色彩や形態を生成していくプロセスは、不安定で物理的にも揺らぐ地面の上に立って生きる私たち自身のリアリティとも響き合うものです。
丸山直文《水を蹴る(つづいて)》2025, acrylic on cotton, 162.3x112cm
水という素材を用いて制作する中で、丸山は「物事はすべて流れている」と思考します。私たちは、掴み取ることのできない世の中の流れを、図や言葉を使って因果関係として示し、現象を切り取ることに慣れています。しかし、そうして得られた事象の解明が、必ずしも私たち個人の人生における、不条理な出来事や複雑な心の動きを説明しきれるとは限りません。
「流れは本来、可視化できないものだと思います。それを時間であれば日付や曜日で区切り、止めてしまう。そこに違和感を覚えることがあります。記憶は薄れ、消えていきます。そして、組み替えられ、新しいものとして蘇る。そのような流れを意識して制作したいと思っています。」
広大な時空の中に明滅する星のように存在する、私たちの生の記憶。それが緩やかに意味を結ぶ場として、丸山直文のたゆたう芸術があるのかもしれません。本展では、3.6メートルの大作を含む、水辺の自然をモティーフとした新作6点以上を発表いたします。また、丸山が日常的に撮影している写真を収めたアーティストブック『brackish water』が刊行されました。ジャバラ状の本書は、ページをめくって楽しむだけでなく、広げることで立体的にも鑑賞できる仕様です。限定6冊、それぞれ異なる函の装丁が施された特別な仕上がりとなっていますので、ぜひこの機会にご高覧ください。
2025年3月 シュウゴアーツ
丸山直文《水を蹴る(よばれて)》2025, acrylic on cotton, 162.3x112cm
展覧会情報
2025年4月19日(土) 15:00−18:00
シュウゴアーツ
Special thanks to Okashimaru.
展覧会初⽇には、御菓⼦丸の特別なお菓⼦をご⽤意し、美と⾷が交差するひとときをお届けします。丸⼭直⽂と御菓⼦丸・杉⼭早陽⼦さんの出会いは⼆年前の秋。板倉孝次⽒が京都で主宰する「IDOCHA」で、丸⼭の新作に着想を得たお菓⼦「⽉の輪」「浮雲」を杉⼭さんが披露されました。この出会いは丸⼭にとっても新たな芸術的な発⾒となりました。今回は本展の新作をもとに創作されたお菓⼦が登場します。ぜひご堪能ください。
御菓⼦丸 杉⼭早陽⼦
1983 年、三重県⽣まれ。京都府在住。2006 年から 10 年間、和菓⼦ユニット「⽇菓」として活動。2014年から「御菓⼦丸」を主宰しながら、和菓⼦を制作、販売している。⾷べて消えることに表現の可能性を感じ、京都にて和菓⼦を学ぶ。⾷べる⾏為を⼀つの体験として捉え、記憶に残る⼀瞬を菓⼦に込めて制作する。2024 年に『御菓⼦丸の菓⼦』を torch press より上梓。
丸山直文
本郷かおる(switch point)
本間あずさ(空想製本屋)
2025年4月19日
28×21.5×3.4cm
限定6冊
丸山が日常的に撮影している写真を収めたアーティストブック『BRACKISH WATER』が刊行されます。
シュウゴアーツ店頭にて取り扱っております。ギャラリースタッフにお気軽にお声がけくださいませ。
お問い合わせはこちらからどうぞ:info@shugoarts.com
出品作品
1964年新潟県生まれ、東京都在住。1990年代以降の日本の重要なペインターの一人として第一線で活躍を続ける。水を含んだ綿布にアクリル絵具を染み込ませて描くステイニング技法を用いた丸山の作品は、モチーフが柔らかく融解して時間も場所も判然とせず、具象でありながら抽象であり、主体/客体の境界も取り払われて、絵画と渾然一体となる境地へと見るものを誘う。丸山のこうした絵画表現は極めて理論的かつ誠実に、「絵画の内部にしか発生しない空間の可能性」の探究と実践によって作り出されている。2008年芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。武蔵野美術大学造形学部油絵学科特任教授。
主な展覧会に「HIRAKU Project Vol.14 丸山直文 水を蹴る―仙石原―」ポーラ美術館(神奈川、2023)、「水を蹴る」シュウゴアーツ(東京、2022)、「ラスコーと天気」シュウゴアーツ(東京、2018)、「流」ウソンギャラリー(大邱、2017)、「GROUND2 絵画を語る−⾒⽅を語る」武蔵野美術⼤学美術館図書館 (東京、2016)、「ニイガタ・クリエーション」(新潟、2014)、「浮舟」豊⽥市美術館 (愛知、2011)、「透明な足」シュウゴアーツ(東京、2010)、「丸山直文–後ろの正面」目黒区美術館 (東京、2008)、「ポートレート・セッション」広島市現代美術館(広島、2007)、「秘すれば花」森美術館(東京、2005)、「ハピネス:アートにみる幸福」森美術館(東京、2003)、「台北ビエンナーレ」台北私立美術館(台北、2002)、「MOTアニュアル」東京都現代美術館(東京、1999)、「第8回インドトリエンナーレ」(ニューデリー、1994)、佐谷画廊個展(東京、1992)など。