写真を始めてから、パリへ渡ったときから、あの街で絵画という宝の山を目の前にしたときから、 いつの日か芸術の先達たるこの絵画を、二次元の表現媒体としての絵画を、同じ二次元たる写真 へ還元できることを夢みていた。
誠実であること。すでにここ(絵画)には表現が在り、だから尚更に自らは表現しないことで成立 させるのだ。
限りなくゼロに戻すこと。絵画も写真も「すでにそこに在る光」のもとでは同等でありその下僕 なのだ。それはこの我が身も同様だ。
小野祐次
写真を始めてから、パリへ渡ったときから、あの街で絵画という宝の山を目の前にしたときから、 いつの日か芸術の先達たるこの絵画を、二次元の表現媒体としての絵画を、同じ二次元たる写真 へ還元できることを夢みていた。
誠実であること。すでにここ(絵画)には表現が在り、だから尚更に自らは表現しないことで成立 させるのだ。
限りなくゼロに戻すこと。絵画も写真も「すでにそこに在る光」のもとでは同等でありその下僕 なのだ。それはこの我が身も同様だ。
小野祐次
展覧会について
シュウゴアーツは2018年12月12日(水)から2019年2月2日(土)まで、小野祐次の個展「Vice Versa – Les Tableaux 逆も真なり−絵画頌」を開催いたします。
本展覧会は、小野が1995年に着手して以来撮影を重ねてきたタブロー(Tableaux)シリーズの最近の成果までを披露する12年ぶり(東京では14年ぶり)の個展となります。
タブローシリーズは、ルネサンスから印象派までの絵画を被写体に、美術館に注ぎ込む自然光や微かな明るさの元で、「可能な限り時間を遡り、当時の画家たちと同じ条件に身を置いて」撮影することを徹底して行っています。そこに現れるのはオリジナルの絵画とはかけ離れた、判然としないイメージです。時に本来脇役であるはずの額装が主役になり、絵画の掛けられた空間や空気そのものまでが取り込まれ、小野が被写体と対峙した時間が集積となって静かに現前しています。
人工の光が登場する以前の画家たちの作品から、アトリエの外に出て大気や光、時間の移ろいをキャンバスに捉えようとした印象派の画家たちの作品まで、16世紀から18世紀にかけての絵画をモチーフに、写真芸術家としての小野は、写真でしか成し得ない表現を長年追い求めてきました。印象派誕生以前の19世紀に、当時の写実絵画の画家たちにその地位を奪われ取って代わられるという危機感を抱かせた写真という技法。小野はこのタブローシリーズによって、絵画史と写真史の歴史的な交差を作品化するという壮大な物語を実現しているように思われます。
小野の「光」に対する考え方は、もうひとつの仕事であるルミネソンスシリーズ(2005〜)との対比において顕著に感じることができます。ヨーロッパの歴史的な宮殿や城などに吊り下げられているシャンデリアを撮り続けているこのシリーズでは、より厳密にはシャンデリアそのものではなく、それを形作っているクリスタルの連なりに照明を当て、光の集合体を印画紙に捉えています。全く異なる光の扱い方をしたこの二つのシリーズが現在の小野の仕事の核となっています。
タブローシリーズについて小野はこのように述べています。
「技術を駆使すれば、もしくは単純に角度を変えれば、似たような凡庸な結果は得られるかもしれない。しかしそれではちっとも楽しくないのです。画家たちの尊厳、絵画のオマージュ、そして写真が誕生した瞬間から一枚の紙の表裏のごとく写真と絵画の愛憎をもう一度見つめ直すには」
「光が描き出した”もうひとつの絵画”」と言えるこのシリーズは、小野が敬愛する画家たちと時代を超えて交歓した証でもあり、また絵画史に対する一撃とでも言うべき行為とその結果と言えるのではないでしょうか。最後に、小野祐次の12年間の沈黙を経て、シュウゴアーツが今個展の機会を得たことは大変光栄なことと思っております。小野さんを始め、今展の実現までの過程でお世話になった皆様方に厚く御礼を申し上げます。
2018年10月 シュウゴアーツ
小野祐次, Paesaggio lacustre conpastore? Anonimo (De Heusch Willem?), 2001, Gelatin silver print, 112.5×89.5cm, ed.12
小野祐次, Ritratto di Enrico VIII(Henry VIII), Hans Holbein, 2001, Gelatin silver print, 112.5×89.5cm, ed.12
1963年福岡県生まれ。1986年に大阪芸術大学芸術学部写真学科を卒業後渡仏、今日までパリを拠点にする。美術館に注ぎ込む自然光や微かな明るさの元で西洋絵画を写し出し、絵画と写真の関係性を再提起する「タブロー」シリーズ、人工光を受けて放出するシャンデリアを媒体に光の集合体を写し取る「ルミネソンス」シリーズを核として、写真というメディアの根幹を成す「光」の表現を探求し続けている。
主な個展に「Vice Versa – Les Tableaux 逆も真なり – 絵画頌」シュウゴアーツ (2018)、パリ市立写真美術館(2006)、グループ展に「光と影展」東京都写真美術館(2006)など。作品はパリ国立図書館、カルナヴァレ美術館、ヒューストン現代美術館、パリ市立ヨーロッパ写真美術館、フランソワ・ピノー現代美術コレクション、アライア・コレクション、上海美術館、東京都写真美術館に所蔵されている。