森は、樹木のみならず様々な生物、水、空気、音、匂い、そして気配などが絡み合う厚みを持った空間だ。山と谷の織り成す地球の襞に根付き呼吸している。森の中そして山と谷の間で交わされる視線は、斜線の織物空間を形成し、織物の密度の濃淡は多中心構造を生み出す。多中心に現れる垂直水平もこの斜線構造によって支えられている。私はこの構造を「森」として彫刻の構造に組み入れようとしてきた。森の視線は、次第に触覚性を母体として情動を呼び覚まし、概念的でありながら情動的あるという往復運動を引き起こした。そこには身体が介在している。空気や水や音のリズムなどが身体を通して素材の表面を流動し、次第に彫刻は形作られていく。
戸谷成雄 2016年11月