2016. 12. 16 Fri2017. 2. 5 Sun
シュウゴアーツ 六本木

森は、樹木のみならず様々な生物、水、空気、音、匂い、そして気配などが絡み合う厚みを持った空間だ。山と谷の織り成す地球の襞に根付き呼吸している。森の中そして山と谷の間で交わされる視線は、斜線の織物空間を形成し、織物の密度の濃淡は多中心構造を生み出す。多中心に現れる垂直水平もこの斜線構造によって支えられている。私はこの構造を「森」として彫刻の構造に組み入れようとしてきた。森の視線は、次第に触覚性を母体として情動を呼び覚まし、概念的でありながら情動的あるという往復運動を引き起こした。そこには身体が介在している。空気や水や音のリズムなどが身体を通して素材の表面を流動し、次第に彫刻は形作られていく。

戸谷成雄 2016年11月

展覧会について

メソポタミアの時代に始まるレリーフ的彫刻から、ポンペイ遺跡で発見された空洞として存在していたヒトや動物たちのトルソのような雌型(めがた)、あるいはミケランジェロのダビデ像から、明治近代を境に江戸的彫りものとロダン的西洋近代彫刻との葛藤を体現した高村光雲 (1852 – 1934)・光太郎 (1883 – 1956) 親子、あるいはロダンに対するある種のアンチテーゼとして見得るメダルド・ロッソの仕事、そしてアルテポーヴェラ、もの派…

戸谷成雄の仕事は、このような古今東西にわたる分析研究を経て到達した独創的な彫刻史観をもって、21世紀の今日に連なる構築的な彫刻表現として位置付けることができます。

彫刻という芸術表現を感受するには、絵の鑑賞では許されるかもしれない文学的アプローチは必ずしも有効ではないという手強さがあります。かつて吉本隆明 (1924 – 2012)が著書「高村光太郎」において、その最終章に「彫刻のわからなさ」という題を付したように、絵を観るときとは異なる感覚のチャンネルを開放する必要があります。

戸谷成雄には極東の日本に結実した真に独創的な彫刻芸術の成果があることは強調されてされ過ぎることはありません。今展においては1987年に第一作を発表して以来、ライフワークとして制作を続けてきた森シリーズの十作目をシュウゴアーツの新しい空間にて発表いたします。また第二室にて併せて新作小品及び過去ブロンズ作品を展示する予定です。

シュウゴアーツ 佐谷周吾

ShugoArts

展覧会情報

戸谷成雄個展「森 Ⅹ」
会期

2016年12月16日(金) – 2017年2月5日(日)

*冬季休廊: 2016年12月26日(月) – 2017年1月9日(月)

会場

シュウゴアーツ

開廊時間

火〜土曜 11:00 – 19:00(日曜 12:00 – 18:00, 月祝休廊)

オープニングパーティー
日時

12月16日(金) 17:00 – 19:00

Shigeo TOYA | ShugoArts
戸谷成雄
Shigeo TOYA

1947年長野県生まれ。埼玉県在住。ポスト・ミニマリズムやもの派といった潮流の中で解体された彫刻の再構築を試みて、1970年代より一貫して人間の存在認識に通じる彫刻の原理とその構造を追求し、作品制作による実践によってその本質と可能性を提示し続けてきた。洞窟絵画、ギリシア・ローマ彫刻から現代に至る古今東西の芸術史観を自由に往来し、類い稀な彫刻論に裏付けされた作品群により、日本、アジア、パシフィックを代表する彫刻の第一人者と目されて久しい。2004年芸術推奨文化科学大臣賞、2009年紫綬褒章受章。武蔵野美術大学彫刻科名誉教授。

 

主な展覧会に「戸谷成雄 彫刻」長野県立美術館(長野、2022-2023)、埼玉県立近代美術館(埼玉、2023)、「視線体:散から連 連から積」シュウゴアーツ(東京、2022)、「⼾⾕成雄 森―湖:再⽣と記憶」市原湖畔美術館(千葉、2021)、「視線体」シュウゴアーツ(東京、2019)、「戸谷成雄─現れる彫刻」武蔵野美術大学 美術館・図書館(東京、2017)、「洞穴の記憶」ヴァンジ彫刻庭園美術館(静岡、2011-2012)、「戸谷成雄 森の襞の行方」愛知県立美術館(愛知、2003)、光州ビエンナーレ<アジア賞受賞>(光州、2000)、「視線の森」広島市現代美術館(広島、1995)、「<山–森–村> 戸谷成雄」町立久万美術館(愛媛、1994)、「第1回アジア・パシフィックトリエンナーレ」クイーンズランド・アートギャラリー(ブリスベン、1993)、「第43回ヴェニスビエンナーレ」ジャルディーニ公園日本館(ヴェニス、1988)。主な出版物に2014年『戸谷成雄 彫刻と言葉 1974-2013』(ヴァンジ彫刻庭園美術館)、2017年『戸谷成雄─現れる彫刻』(武蔵野美術大学 美術館・図書館)など。