2016. 8. 27 Sat9. 4 Sun
シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリー 三宿

降りそそぐ光と流れる空気で満ちた室内は、室外との境界がない印象だった。通りから階段を駆け下りる人々が、それらを運び入れるのだろうか。何度もこの場所を訪れる度、目には見えない流動を感じてきた。ここは、風の通り道なのだ。

宙に舞う白い布、揺れながらきらめく白波、空を漂う浮き雲、そよぐ樹木。浴女の持つ布が突然の風で舞い上がるその一瞬を捉え、油絵の具の塊に風という絵筆を衝突させる。

2016年7月 髙畠依子

About exhibition

展覧会について

髙畠依子の絵画は一筋の絵の具を一本の糸のように絞り出しながらキャンバス上に描きます。それは例えばポロックが絵の具をさりげなく撒くことから始めるアクションペインティングとは案外異なるもので、むしろ、いわば一枚の布地をつくることが一本の糸を織り機に掛けることから始まるかのようです。

 

もともとファッションのテキスタイルに魅せられ、服地のサンプルのコレクションもしてきた髙畠は、一本一本の糸が布地というひとつの「面」を生み出すことに着想を得て、独自の絵画手法にたどり着きました。

 

絵具を紡いで丹念に織り物にしたかのような平面を生み出すことから始まった髙畠の作品は、ときに画面が乾く前に強力なブローを当てて絵の具を吹き飛ばすような、大胆な所作に及ぶこともあります。そこには作り、こわすことによって、さらに新しいものが生まれるという、単純にして美しい弁証法的視覚世界とでも言うべきものが出現します。

 

2014年の東京オペラシティアートギャラリーにおける若手作家を対象とした「Project N」シリーズでの個展において、静かに熱い支持を得た髙畠芸術は、以後すみやかに人気を博し、香港、上海、台北、NY、シンガポールのみならずヨーロッパにもすでに伝播しています。

 

今回の個展は、連作6点による展示となりますが、実は作家本人にとってもシュウゴアーツにとっても、あらかじめ予定されていたプログラムではありません。

 

髙畠はこの夏前まで、彼女が私淑するアニ・アルバース(Anni Alberes 1899-1994)の研究に没頭していました。アニ・アルバースは夫のジョセフ・アルバース(Josef Albers 1888-1976)とともにアメリカに渡り、テキスタイル・アーティストとして独自の地位を獲得しましたが、渡米前はバウハウスでパウル・クレー(Paul Klee 1879-1940)の後任としてテキスタイルの教授であったことでも知られています。

 

その研究がひと区切りついて、ようやく制作に戻ったところでもあり、シュウゴアーツ・ウィークエンドギャラリーが六本木に移転する前に、是非とも三宿の空間に作品を展示したいという本人のかねてよりの希望もあり、夏休み明けの2週間を急遽個展に当てる運びとなりました。

 

都合四日間、8月27日、28日、9月3日、4日の土・日曜日のみの展覧会ではありますが、青木淳の独創的なギャラリー空間に髙畠依子の絵画世界がどのように響き合うか、興味深い展示になることは必至です。御高覧頂ければ幸いです。

Information

展覧会情報

髙畠依子「水浴」
会期

2016年8月27日(土)、28日(日)、9月3日(土)、4日(日)

会場

シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリー

開廊時間

毎土曜・日曜 正午より午後6時

オープニングパーティー
日時

8月27日(土)午後4時~

会場

シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリー

Yoriko TAKABATAKE | ShugoArts
髙畠依子
Yoriko TAKABATAKE

1982年福岡県生まれ、東京都在住。2015年アニ・アルバースの研究のためレジデンスを行う(コネチカット州・ジョセフ&アニ・アルバース財団)。髙畠は素材の物質的な現象を通して、絵画を平面的な捉え方から拡張させ、物理的な構造を持つ存在へと展開してきた。ラスコー洞窟壁画やナスカの地上絵などから世界の大きさを肌で感じつつ、素材との対話の中で生まれてくる作品は、イメージを描くことでは生まれることのない物質的空間を持ち、髙畠の手によって生成された作品である。

 

主な個展に「LINE(N)」シュウゴアーツ(東京、2024)、「CAVE」シュウゴアーツ(東京、2022)、「MARS」Gana Art Nineone(ソウル、2022)、「MARS」シュウゴアーツ(東京、2020)、「VENUS」Gana Art Hannam(ソウル、2019)、「泉」シュウゴアーツ(東京、2018)、「水浴」シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリー(東京、2016)、「Project N 58 髙畠依子展」東京オペラシティアートギャラリー(東京、2014)。主なグループ展に「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ」アーティゾン美術館(東京、2023)、「FUJI TEXTILE WEEK 2021」富士吉⽥中⼼市街地ほか(⼭梨、2021)、「TRICK-DIMENSION」TOKYO FRONT LINE(東京、2013)、「アートアワードトーキョー丸の内 2013」(東京、2013)、「DANDANS at No Man’s Land」旧フランス大使館(東京、2010)。主なコレクションにアーティゾン美術館。