残響ー打ち寄せる波

2022. 6. 4 Sat5. 28 Sat
シュウゴアーツ 六本木

米田知子, 70年目の8月6日・広島, 2015, Chromogenic print, image: 76x96cm, ed.5

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米田知子, 70年目の8月6日・広島, 2015, Chromogenic print, image: 76x96cm, ed.5

日本は帝国主義の下、列強諸国と肩を並べ、無数の命を犠牲にし、暴力と戦争へと突き進んでいった時代があった。そして1945年、原子爆弾が投下された世界初の国となり、敗戦を迎えることとなる。

歴史において”戦争”は終焉することなく、繰り返され、暴力の余波は絶え間無く打ち寄せる。私の幼少時代は、イデオロギー、社会・経済体制の異なる東西陣営が対立する冷戦の真っ只中であった。そして、1989年ベルリンの壁崩壊からソ連解体の1991年には、旧衛星諸国の多くは独立を果たす一方、新しい境界線が引かれる次の紛争へと推し進められていく。

 

欧州では民主化を遂げた国の連帯が広がり、多くの犠牲者を出した20世紀の先の大戦に終止符を打つかのよう、ある種幸福を享受したように感じられていたが、絶え間無く続く紛争、テロリズム、過激派の暴走、次に待ち受ける荒波へ、危機の瀬戸際に立たされていたのであった。ロシアのウクライナ軍事侵攻が激化する中、多大な犠牲者と暴虐を生み出し、ふたたび民主主義が脅かされ、試されている。この荒波に立ち向かい、全ての人々の魂に宿る光を、希望を奮い立たせ、消すことなく生きていくのだ。

2022年 米田知子

展覧会について

シュウゴアーツは2022年6月4日(土)から7月9日(土)まで、米田知子の個展「残響―打ち寄せる波」を開催します。ロンドンを拠点として活動を続ける写真家・米田知子は世界各地を舞台に、日常的には静穏な時間が流れる、かつての歴史的事象の現場、戦争や災害の記憶を宿す場所、人、ものを対象に制作を続けています。米田作品は綿密なリサーチをもとに歴史を検証し、構成的な写真表現に移し替えることでモティーフが内包するストーリーを再構築し、鑑賞者に新たな認知を促します。

ShugoArts

米田知子, 窓 I、ソビエト国境警備所、ソルベ半島、サーレマー島、エストニア,
2004, Chromogenic print, image: 65x83cm, ed.10

本展においては21世紀においてもなお尽きることのない世界の紛争を、レンズを通して観察し続けた米田の視点から辿る構成となっています。破壊と復興により場所性を更新し続ける人間社会の姿を映し出すと同時に、粛々と生を営む名もなき自然の存在をフレームに捉える米田独自の感性は、20年以上におよぶ表現活動に一貫した詩的なトーンを与えています。今回は2000年代初頭から2020年までの間にフランス、ベルギー、ボスニア、サハリン、朝鮮半島の非武装地帯で撮影された作品を中心に展示を行います。どうぞご期待ください。

2022年4月 シュウゴアーツ

ShugoArts

米田知子, 丘陵ー「モスキート・クレスト」の頂をのぞむ、ブルネテの戦い、スペイン,
2019, Chromogenic print, image: 19x24cm, ed.25

展覧会情報

米田知子個展「残響―打ち寄せる波」
会期

2022年6月4日(土) ‒ 7月9日(土)

会場

シュウゴアーツ

開廊時間

火〜土曜 12:00−18:00 (日月祝休廊)

企画

石井美奈子

オープニングレセプションは開催いたしません。新型コロナウィルス対策のため開廊時間を短縮しております。
Tomoko YONEDA | ShugoArts
米田知子
Tomoko YONEDA

1965年 兵庫県生まれ、ロンドン在住。20世紀のイデオロギーをテーマに、徹底した対象へのリサーチを重ねる米田知子はこれまでに戦争や震災の傷跡が残る日本国内以外にもヨーロッパ、東欧、アジアなど幅広い地域において記憶が強く残る場所に訪れて制作を続ける。写真を通して土地やものに宿る歴史的真実に迫り、詩的な感性をたたえた情景の背後に幾層にも重なる記憶を呼び起こす。

 

主な展覧会に「氷晶」シュウゴアーツ(東京、2024)、「残響―打ち寄せる波」シュウゴアーツ(東京、2022)、「Tomoko Yoneda」マフレ財団(マドリッド、2021)、「アルベール・カミュとの対話」シュウゴアーツ(東京、2019)、第12回上海ビエンナーレ(上海、2018-19)、「アルベール・カミュとの対話」パリ日本文化会館(パリ、2018)、「ふぞろいなハーモニー」広島市現代美術館(広島、2015)/ Kuandu Museum of Fine Arts(台北、2016)、光州ビエンナーレ(光州、2014)、あいちトリエンナーレ(愛知、2013)、「暗なきところで逢えれば」姫路市立美術館(兵庫、2014)/ 東京都写真美術館(東京、2013)、「キエフビエンナーレ」(キエフ、2012);「Japanese House」シュウゴアーツ(東京、2011)、「終わりは始まり」原美術館(東京、2008)、第52回ヴェネチア・ビエンナーレ(ヴェネツィア、2007)、「震災から10年」芦屋市立美術館博物館(兵庫、2005)、「記憶と不確実さの彼方」資生堂ギャラリー(東京、2003)など。