ShugoArts

千葉正也

思い出をどうするかについて、ライトボックス⾵間接照明、⼋つ裂き光輪、キスしたい気持ち、 家族の物語、相模川ストーンバーガー、わすれてメデューサ、50m先の要素などを⽤いて

2017.10.20 Fri - 11.18 Sat

Masaya CHIBA, 家族の物語, 2017, oil on canvas, 61x73cm

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開廊時間: ⽕〜⼟曜 午前11 時 - 午後7 時, ⽇⽉祝休廊
展覧会オープニング&complex665 ⼀周年記念 レセプション: 10 ⽉20 ⽇(⾦)午後6 時から8 時

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無限のファクター

例えばかつて中平卓⾺ (1938-2015) が当時の写真家達とはずいぶんと隔たった感覚・意識をもってファインダーを覗いていたことに想いを馳せてみましょう。彼は⽇々遭遇する夥しい現実の数々を、こちらが対象を⾒るというよりむしろ、被写体がこちらを⾒つめているかのように、眼前に繰り広げられている「世界」の露⾻な、唯物的な有り様を写真を通して捉え続けた点で偉⼤な⾒者でした。

中平卓馬 参考画像 >>

中平より40 年余り後に⽣まれた千葉正也は、敬愛する中平卓⾺の切り拓いた地平のその先で何をし、またこれから何をしようとしているのでしょうか。最近の絵画やドローイングに登場する「無限のファクター」「エクストラファクター」という⾔葉にそのヒントがあるかもしれません。

千葉正也は1980 年横浜市に⽣まれ、現在東京の⻄側の郊外、⾼尾⼭に近い⼋王⼦エリアを拠点に制作をしています。彼の作品には⾃ら作った彫刻や⾝の回りの道具・⽇⽤品が常に登場します。それらは2004 年に遡るキャリアの初期から姿を変え⾊を変え、折々に作品に登場しているものもあれば、都度新たに登場するものもあります。⾃ら選んだ対象に何度も⽴ち返り、ときに新しい役割を与える、という対象への能動的な関わり⽅は、中平卓⾺が切り拓いた⾃⼰と世界との対峙の仕⽅・関わりようを、コンピュータなどの道具を⽤いない⾮操作的な⼿段で乗り越えていこうとする、ある種困難で時間のかかる営みと⾔えます。

千葉正也が今年制作した⼤作「みんなで冒険しようぜ #3」(参考図版) には記念碑的漫画「ワンピース」と「あしたのジョー」のセリフがふんだんに登場します。従来の少年冒険漫画の主⼈公がいわば世界を救うヒーロー的存在であるとすれば、「ワンピース」のヒーローはそうではなく、⽬指すものは「世界で⼀番⾃由な存在としての海賊王」です。また、「あしたのジョー」の⽮吹丈と⼒⽯徹の⼀貫したストイシズムも、それは世界を救うヒーローとは隔たりがあります。彼が幼少期から親しんだ漫画を⾃分の⾝の回りの環境に拡散し溶け込ませることを⽬論んでいるということは、こうした漫画のセリフが⾃作彫刻や道具・⽇⽤品と同じレイヤーで絵の中の舞台に登場していることから窺うことができます。
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Masaya CHIBA, みんなで冒険しようぜ #3, 2017, oil on canvas, 181.8x259cm(参考図版)

これまでのすべての作品において描かれる対象は空想ではなく実在のもので、彼が絵のために周到に配置したもの、あるいは採集した既存のイメージです。しかも千葉の優れたスキルゆえ、⽊は⽊として、⾦属は⾦属として、プラスチックはプラスチックとして⾒えるように材質感を⾒事に描き分けられることが⼤きなアドヴァンテージになっています。

その結果として出来上がった作品は「ポータブル・インスタレーション」とでも呼ぶべき絵画として提⽰されます。あえて絵画というフォーマットにこだわり、このメディアの可能性を最⼤限に発揮させているという点で、冒険⼼溢れる⽐類のない新しい芸術として⾒る者を魅了します。

千葉は21 世紀前半の絵画芸術の⼤きな成果として早晩⾼く評価されるべき、数々の独創的な仕事をすでに⽣み出し続けていると⾔っても決して過⾔ではありません。千葉芸術の醍醐味とは、古今東⻄の絵画芸術の様々な成果に対する誠実な継承と同時に、20 世紀以降の既存の現代芸術の枠組みに対して、絵画というメディアを駆使した逆⽅向からの揺さぶり、という⼤胆不敵な取り組みにあります。⼈⼯知能に依拠する次の時代がそこまで来ているかもしれない現在、我々にとっても未来の⼈々にとっても極めて重要な独⾃の芸術的営みを千葉正也は続けているのです。

今回の展覧会には新たな着想による絵画群とこれまで描きためてきたドローイングを展⽰します。

シュウゴアーツ ディレクターズ 2017 年8 ⽉

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Masaya CHIBA, キスしたい気持ち, 2017, oil on canvas, 38.5x46cm