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シュウゴアーツ

佐谷周吾へのQ&A

2019.6.29 Sat

ウェブ版美術手帖にて好評掲載中の対談企画「小林正人✕佐谷周吾」に関連して、ページ数の関係で掲載できなかった佐谷周吾へのQ&Aを公開しました。美術手帖の記事と併せてぜひご覧ください。

ウェブ版美術手帖「アーティストとギャラリストはともに歩む。小林正人✕佐谷周吾対談」はこちら(2019年6月11日掲載)

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シュウゴアーツの美術史観について

 歴史がそうであるように、美術史もまたひとつではない、という思いがあります。私がこの業界に入った80年代半ばの日本現代美術界には、絵画作品を絵画と呼ばずに平面と呼び習わす教条的で閉塞感の強い、今思えば奇妙な空気が蔓延していました。自分が最初に仕事をすべく出会った小林正人を、そこに風穴を開けるかもしれない存在であるとやがて見なすようになりました。自分もまた現代美術の歴史に自分なりに参画し発信したい、という切なる願いがあったということだと思います。

 例えば絵画芸術のことは、洞窟絵画を起点としてミニマリズムまで、各時代背景に沿った形でその展開が歴史的に記述されています。それがミニマリズム後の20世紀の最後の20年間及び21世紀の今日まで、絵画としての自律的発展・展開はすっかり見えにくくなりました。地域性・辺境あるいはジェンダーあるいはポリティカルコレクトネスに由来する、いわゆる多元主義的な観点・枠組が前面に出て来て、絵画芸術のフォルマリスティックな課題が棚上げされ後退していったことは否めません。

 実に小林正人は絵画の真の自由を追求し続ける一方で、こうした多元主義的な枠組から最も遠いところにあり続け、何かに位置付けられることがこれまでなかったことはむしろ誇りとすべきことかもしれません。絵画を主人公としてこれまでの絵画芸術の歴史を見返してみれば、小林の仕事はミニマルアートへの真正面からの絵画芸術的回答であり、何ものにも打ち破られることのない美術史上の事実である、と信じて今日まで仕事をして来ました。その分ときにはやせ我慢もして来ましたが。

    美術の劣等生だった自分の絵画芸術観が小林正人との対話によって形成されていったとすれば、私の彫刻のグルは戸谷成雄でした。戸谷は彫刻を主人公として自らの彫刻を作って来た根っからの彫刻家と言えるでしょう。彼が拠り所として来たのはギリシャ時代の大彫刻家フィディアスからルネサンスのミケランジェロ、そしてロダン、ロッソを経てジャコメティまで、あるいは高村光太郎に対して橋本平八の仕事など、現在のトレンドとは無縁のところで独自の歴史観・文明観に根ざした彫刻世界を築いて来ました。戸谷は確かにもの派に触発されて自分の彫刻世界を形成する経緯がありましたが、その歴史的射程は単に現代美術という括りでは見えづらい壮大なスケールがあります。

 

ギャラリストとしての喜び、そしてモチベーションとは

 歴史を紐解けば、過去から今日までの道程に対して強い光を当てて見極めることの出来る者だけが、未来に向かっても同じだけの強い光を放つことができる、という良き例がいくつもあります。芸術の歴史において偶然性やマーケット由来の芸術的事件はやがて後退していくことでしょう。小林や戸谷に限らず、シュウゴアーツのアーティスト達が芸術の歴史において良き例である、と胸を張って言えることが私のギャラリストとしての幸せであり、彼らの芸術的成功が私の喜びでもあります。

 シュウゴアーツはアーティストとともにローカルに根ざしつつ、時代と国境を超えるマインドを持って、その活動を東京から発信するギャラリーであると決めています。香港ひいてはアジアを代表するアーティストのリー・キットと仕事をする喜びは、アーティストの姿勢がまさに絵画そのものを主人公とする制作を志向し、絵画の領域をユニークな方法で拡張しているのを目の当たりにすることにあります。アーティストが未来に向かって自らを投げ出すことに、ギャラリーとして精一杯付き合うことの連続がギャラリーにとっての未来だと考えます。

 

シュウゴアーツのアイデンティティについて

 アーティスト達、コレクター達、キュレーター達、クリティック達が出会う、交差点にして時にアートの神聖なる道場にもなる運動体としての商業画廊。古今東西のさまざまなアートが同時鑑賞可能な今の時代に、現代美術ギャラリーのあり方もまた新たな眼で見直されるべきだと思います。その中でシュウゴアーツはアーティストがアーティストとしての成長をいかに実現するか、あるいはアーティストが達成した成果をいかに残し伝えていくか、という使命感を持ったアートのプロチームであり続けたいと思います。

 


 

*本テキストは下記展覧会と「小林正人✕佐谷周吾対談」記事(ウェブ版美術手帖 2019年6月11日掲載)に関連して公開しました。

小林正人「画家とモデル」
会期: 2019年6月1日 (土)-7月6日(土)
会場: シュウゴアーツ

小林正人✕佐谷周吾対談記事はこちら

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