泉
何気ない⽇常の⾵景のなかで、とりとめのない表情を⾒せてくれる⽔。
ゆらゆらと揺れ、ぽたぽたと落ち、ぶくぶくと湧きあがる。
躍動する⼒強さに魅せられ、⽔と戯れた。
⽔⾯をキャンバスに、泡をつくり、⾊を重ね、空気を送る。⽔を使って⽔⽟模様を描く。
地球の重⼒や⽉の引⼒といった⽬には⾒えない⼒とともにかたちをつくる。
⼤⾃然の中から湧き出した透明で清らかな⽔は、時の中を循環しながらこの世界の隅々まで沁み渡る。
2018年2⽉ 髙畠依⼦
泉
何気ない⽇常の⾵景のなかで、とりとめのない表情を⾒せてくれる⽔。
ゆらゆらと揺れ、ぽたぽたと落ち、ぶくぶくと湧きあがる。
躍動する⼒強さに魅せられ、⽔と戯れた。
⽔⾯をキャンバスに、泡をつくり、⾊を重ね、空気を送る。⽔を使って⽔⽟模様を描く。
地球の重⼒や⽉の引⼒といった⽬には⾒えない⼒とともにかたちをつくる。
⼤⾃然の中から湧き出した透明で清らかな⽔は、時の中を循環しながらこの世界の隅々まで沁み渡る。
2018年2⽉ 髙畠依⼦
展覧会について
シュウゴアーツは2018 年4 ⽉14 ⽇(⼟)より髙畠依⼦の新作個展「泉」を開催いたします。
髙畠依⼦は2014 年に東京オペラシティアートギャラリーのプロジェクトスペースでの個展によってその独創的な仕事が知られ始めました。2016 年に博⼠号を取得した東京藝術⼤学⼤学院での三年間において、アニ・アルバース*の仕事をもっぱらの研究対象としつつ、他⽅では実制作において絵画そのものが織物であるかのような、絵の具を⽷のように垂らして重ね、ときにはそれを⽣乾きのうちに吹き⾶ばす、というユニークな絵画表現を獲得している点が、画⾯の緻密なエレガントさとでもいうべき作⾵とともに注⽬されました。今回の新作展では、これまでの到達点からさらに⼀歩踏み込んで、絵の具を⽷のように垂らしつつも偶然性を積極的に取り⼊れた新たな試みが披露されます。
髙畠は今展覧会のタイトルを「泉」と命名しました。彼⼥の仕事場はいわゆる画家のアトリエとはどことなく異なり、絵画をあたかも結晶体あるいは⽣命体のように⽣成しようとするかのような理系・⼯学的雰囲気があり、それは絵画⽣成研究所とでも呼ぶべき新絵画創造の実験場 / ラボになっていると⾔ってもよいかもしれません。こここそが作品を⽣み出す「泉」のような場所と⾔えるでしょう。かつてテキスタイルの世界にも魅⼊られた美術少⼥が、他⽅では絵画の歴史に否応なく正⾯から向き合う受容の時期を経て、やがて⾃らの⽅法論を⾒出しながら今追い求めているテーマは、彼⼥の作品の⼀⾒⼿を触れがたい繊細さとは裏腹に、実はとても壮⼤にして野⼼的なものです。
ポロックのアクション・ペインティング、ルイスのステイン・ペインティング、⽩髪のフット・ペインティング、⽥中敦⼦の円を紡ぐペインティング、草間彌⽣の増殖するネット・ペインティング、単位の芸術としてのミニマリスム、あるいは彼⼥の師である⼩林正⼈の描きながらキャンバスを張るというペインティングなど、20 世紀後半にそれぞれに必然性をもって陸続と⽣み出された⼿法・構造によって切り拓かれてきた絵画表現の地平を前にして、21 世紀の画家髙畠依⼦もまた独⾃の絵画表現のスタイル確⽴に果敢に挑んでいます。
今回展⽰されるのは、髙畠の旨とする「作り、壊し、また作る」という弁証法的な作法をベースに、偶然性を積極的に取り⼊れた、しかしながら以前同様のエレガントさを備えた作品群です。偶然性の導⼊のための触媒として、⾵に続き、今回は⽔や重⼒の働きを⽤いるに⾄ったのは、髙畠ならではの実験・思索・試⾏の積み重ねの成果でもあります。
この展覧会は髙畠依⼦にとってシュウゴアーツにおける2016 年に続く⼆度⽬の個展となります。髙畠依⼦というフレッシュにして本格的な芸術家の誕⽣に注⽬して頂き、貴メディアにて取り上げて頂ければ幸いです。
シュウゴアーツ 佐⾕周吾
註 *アニ・アルバース (Anni Albers 1899-1994) バウハウスのテキスタイル科でパウル・クレーの後任として教鞭を取り、ナチの台頭著しい1933 年に夫ジョセフ・アルバースとともに渡⽶し芸術活動を続ける。夫妻ともに優れた芸術家にして教育者としてアメリカのみならず後進のアーティスト達に⼤きな影響を与えた。髙畠は調査研究の⼀環として、2015 年に⽶国コネチカットにあるアルバース財団に招聘され滞在した。
髙畠依⼦, Dust, prussian blue, 2017, oil, acrylic on panel, 142×85cm
髙畠依⼦, Deep dust, prussian blue, 2018, oil on panel, 36×28cm
髙畠依⼦, ⽔の惑星 Ⅱ, 2018, oil, acrylic on panel, 41.5×32cm
1982年福岡県生まれ、東京都在住。2015年アニ・アルバースの研究のためレジデンスを行う(コネチカット州・ジョセフ&アニ・アルバース財団)。髙畠は素材の物質的な現象を通して、絵画を平面的な捉え方から拡張させ、物理的な構造を持つ存在へと展開してきた。ラスコー洞窟壁画やナスカの地上絵などから世界の大きさを肌で感じつつ、素材との対話の中で生まれてくる作品は、イメージを描くことでは生まれることのない物質的空間を持ち、髙畠の手によって生成された作品である。
主な個展に「LINE(N)」シュウゴアーツ(東京、2024)、「CAVE」シュウゴアーツ(東京、2022)、「MARS」Gana Art Nineone(ソウル、2022)、「MARS」シュウゴアーツ(東京、2020)、「VENUS」Gana Art Hannam(ソウル、2019)、「泉」シュウゴアーツ(東京、2018)、「水浴」シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリー(東京、2016)、「Project N 58 髙畠依子展」東京オペラシティアートギャラリー(東京、2014)。主なグループ展に「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ」アーティゾン美術館(東京、2023)、「FUJI TEXTILE WEEK 2021」富士吉⽥中⼼市街地ほか(⼭梨、2021)、「TRICK-DIMENSION」TOKYO FRONT LINE(東京、2013)、「アートアワードトーキョー丸の内 2013」(東京、2013)、「DANDANS at No Man’s Land」旧フランス大使館(東京、2010)。主なコレクションにアーティゾン美術館。